フリースクール全国ネットワーク調査検証委員会中間報告について

フリースクール全国ネットワーク調査検証委員会中間報告

1 はじめに

本調査検証委員会(以下「本委員会」という)は、フリースクール全国ネットワーク(以下「フリネット」という)加盟団体であるフリースクール「東京シューレ」で過去に発生した人権侵害事件(以下「東京シューレ事件」という)の発覚を契機として、フリースクールの中間支援組織であるフリネットの責務としてフリースクールで発生する人権侵害事件に関する予防や対応に取り組んでいく必要があると判断されたことから設置された。

本委員会では、第一にフリースクール施設等で人権侵害が生じるリスク構造等を検証し、各フリースクールが人権侵害を予防していくための行動規範や仕組を呈示していくこと、第二にフリースクールの中間支援組織として、加盟団体における人権侵害事件発生時の対応方針の検証を行うこと、第三にフリネット理事会における東京シューレ事件発覚後の対応の是非等について検証することを目的とした。

2 調査検証委員会構成

委員長  中村尊:フリネット代表理事

副委員長 安井飛鳥:弁護士、ソーシャルワーカー

委員   坪内清久:弁護士

     末冨芳:日本大学文理学部教授

     前北海:フリネット理事

3 経緯

第1回検証委員会(2020.11.2)

 検証委員自己紹介、委員長・副委員長選任、検証内容・検証方針の確認

第2回検証委員会(2020.12.7)

 東京シューレ事件に関する理事会での対応経過の確認、問題点の検証、今後の検証方針の検討

第3回検証委員会(2021.1.18)

 フリースクールポリシーの設置の検討(予防対策)、事故発生後の対応のあり方の検討、フリネット理事会の事後の対応の検証 、

第4回検証委員会(2021.2.8)

 過去にフリースクール施設等で起きた人権侵害事例の共有およびその検証

第5回検証委員会(2021.3.1)

 論点の整理、中間報告の内容の検討、今後のスケジュール・進捗について

第6回検証委員会(2021.4.5)

 中間報告とりまとめ

第7回検証委員会(2021.4.26)

 中間報告最終確認

なお、本委員会設置の契機となった東京シューレ事件について本委員会独自での検証を行うことについても検討された。しかし、本委員会の立場や権能で双方当事者の承諾なく独自に客観的かつ正確な調査を実施することは困難であり、また倫理的にも相当ではないこと、既に東京シューレにおいて当該事件に関する第三者委員会が設置され調査・検証が始められていること、当該第三者委員会から本委員会への協力が得られなかったこと、その他本委員会の任期や体制上の限界から現時点において当該事件に関する独自の調査・検証までは行わないこととした。

4 検証内容

①フリースクール施設等における人権侵害予防のための行動規範(フリースクールポリシー)策定

・過去にフリースクールや学校、福祉施設等で起きた人権侵害事件の中で裁判等となり事実関係がある程度客観的に明らかにされている事件を中心として、事件が起きた要因、背景構造等についての調査・分析を行った。

・報道等により取り上げられ裁判となる事件の多くは刑事事件に至るような深刻な人権侵害事件が中心であった。しかしながら、こうして顕在化した事件は氷山の一角であり、現実には様々な人権侵害事件が存在しうること、あるいは人権侵害に至らなくとも日々の運営の中で人権侵害に繋がりうる専門性に欠ける対応が行われている例は少なくないと思料される。また、人権侵害事件の中には支援者が良かれと思ってなされた関わりが結果として人権侵害につながることもある。人権侵害は誰もが例外なく起こしうるものであるという意識付けが必要である。

・深刻な人権侵害事件を未然に防いでいくためには、こうした子どもへの専門性に欠ける対応の容認・積み重ねがやがては刑事事件に至るような重大な人権侵害につながるリスクがあり、経験や経歴に慢心することなく、外部の視点を取り入れながら研鑽を積み専門性を向上させより良い対応を目指していく必要がある。

・人権侵害事件を予防していく前提として、フリースクールで働く職員や管理者が基本的人権保障の意義を理解するとともに、人権擁護に関わる職員がその権力性、非対称性ゆえに人権を侵害しやすい立場、地位にいることに自覚的になる必要がある。そのうえで人権侵害が生じる要因をスタッフ個人の資質や力量といった属人的要素に矮小化して捉えるのではなく、組織としてのスタッフマネジメントやガバナンス体制の問題として捉えていく必要がある。

・一方で法定の設置・運営基準のある学校や福祉施設であってもスタッフの専門性に欠ける対応の改善に苦慮している。フリースクールは、法定の設置・運営基準もなく、運営形態や理念もより多様である一方で、職員や運営体制の維持自体が課題となっている施設も少なくないのが実情である。こうした実情に鑑みながら、フリースクールの目的や役割・限界をどのように位置づけ、共通する行為規範としてどのようなものを求めることが相当であるかについては更なる調査・検討が必要となる。

・フリースクールでは職員だけでなく利用する子ども間での人権侵害についても検討の必要がある。多くのフリースクールが学習支援だけでなく、特別な配慮が必要な子どもや家庭への生活サポートの役割を事実上担っているが、フリースクールとして行うべきサポートのあり方や限界、利用者側が遵守すべき事項についても検討していく必要がある。 

②フリースクール等施設における人権侵害事件が生じた場合の各施設及びフリネットとしての対応方針や相談体制の策定

・実際にフリースクール等施設において人権侵害事件が生じた場合や人権侵害が疑われる事態が生じた場合に加盟団体が組織として取るべき対応方針については早急に策定していく必要がある。

・特に被害者保護の観点から被害者の意に反する形での聴取りや専門的配慮に欠ける聴取りが記憶の混濁や二次被害につながる危険もあるため、被害者本人の同意や専門家支援なしにいたずらにスタッフの判断のみで聴取りを行うべきではないこと等を周知徹底していく必要がある。

・紛争の仲裁・解決機能を持たないフリースクール等施設だけでの対応は、被害者にとっても加害者にとっても不適切な対応を招くおそれがあるため、組織内だけで解決するのではなく必要に応じて第三者機関に相談していくことが望ましい。

・重大な犯罪行為に該当する可能性のある事態が生じた場合には、当該フリースクール等施設における対応は必要最小限度にとどめ、被害者の意向も踏まえながら警察等による対応やその他行政・司法機関による解決に委ねるべきと考えられる。一方で警察等による対応が必ずしも被害者にとって適切なものとは限らない。また、子どもにとって安心安全な生活空間であるフリースクール等施設に安易に警察等が出入りする形になることは望ましくない。いかなる場合に警察等による対応に委ねるべきかについては具体的な基準を検討していく必要がある。

・事件の相談、解決にあたっては各地域毎に設置されている子どものオンブズパーソン等の第三者機関利用が望ましいが、地域毎に制度の設置状況は異なるため加盟団体に対して画一的な対応を求めることはできない。各地域の弁護士等の専門家に依頼する方法も考えるが専門家報酬の予算拠出を誰がどのように行うかの問題が残る。そこで中間支援組織であるフリネットにおいて独自の相談体制を整備する方法も考えられるが、その場合には体制整備や専門家派遣のための予算措置を含めた検討が必要である。

・現在のフリネットの規約上、フリネットはフリネット加盟の各フリースクール等施設に対して強制力を伴う監督権限までは有していない。フリネットの加盟団体への支援や監督機能を強化し、加盟団体の質や適格性を担保していくために認証制度や介入の仕組導入が考えられるが、これを実現するためにはフリネットの規約の大幅改訂の必要があり、その前提として現加盟団体間でコンセンサスを得ていく必要もある。

③フリネットにおける組織体制の課題及び改善策の提案

 ・フリネットとしては、東京シューレ事件に関して2019年7月の事件報道があるまで把握できていなかった。また、事件発覚後もフリネットとしての対応方針が定まるまでに時間を要し、事件への対応が遅れることになった。結果としてフリネットは東京シューレの不適切な対応と当該事件の被害者への二次加害を助長することとなった。

 ・フリネットがより早い段階から東京シューレ事件を把握できていなかったのは、前記の通り、フリネットに加盟団体への監督、介入のための仕組が備わっていなかったことが理由としてあげられる。

 ・フリネットとして事件対応が遅れた背景要因については、フリネット役員が関与するフリースクールである東京シューレにおける事件であったことから、フリネット内部においても被害者支援よりも東京シューレの組織防衛を優先した対応が行われ、結果、事件対応の遅れを招いたものと考えられる(フリネットにおける東京シューレ事件発覚後の役員対応の経過については、現在、調査記録を当事者役員の供覧に付して認否・反論の確認をしている段階である。最終報告時点では、当該事実経過の詳細な事実認定結果についても明らかにしていく方針である。)

 ・フリネット役員が所属する加盟団体において事件が発生した場合等フリネットと利益相反が生じる懸念がある場合、その他正当な批判や自浄作用が生じにくくなる事態が懸念される場合に、正常な監督機能が果たされるように理事会規定の見直し(利害関係役員の排除規定等)や外部監査等の仕組み導入が必要である。

5 今後の予定について

・本中間報告を加盟団体メーリングリストで報告し、さらにフリネットホームページでも公開して、現在の検討内容や方向性についての意見を募る。寄せられた意見をもとに最終報告書を調製し、6月27日のフリネット総会に向けて6月13日開催のフリネット理事会に提出する。

・具体的な行動規範の策定や相談体制の整備については、フリネット理事会・総会での議決や規約の改正が必要となるため、今後はフリネット理事会や総会での検討を求める。その際に行動規範や体制整備の内容については、実態を無視した画一的な運用を求めるのはフリースクールの多様さを損ない、かえって子どもにとっての居場所を喪失させてしまう懸念がある。フリネット各加盟団体から広く意見を募り、各加盟団体の詳細な実態調査を行ったうえで、各加盟団体毎の特色や支援の多様性を活かしながらも一定の質を担保した標準化をバランス良く検討していくことが望ましい。

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